これまで大阪市は「3月24日(土)以降に判断する」「住民基本台帳法に則って手続きを進める」ということしか言っていません。現在、西成区内で内部調査(長年、会館などに住民登録するようにと区役所の窓口で指示してきたのだが、そのような事実の有無を西成区役所内で実施しているというアンケート調査)を実施しているといいますが、その調査結果をまとめると言っているのが3月30日頃。調査結果に先行して消除手続きを進めるのはおかしい。調査結果があって(どのような調査結果をひねり出してくるのかわかりませんが)、責任の所在が明確になってから、対処方法を検討するというのが筋道でしょう。
今回の交渉では、大量登録を違法状態とする「結果面」だけしか主張できない大阪市に、なぜ大量登録という事態が生み出されたのか、その原因(市政が日雇労働市場(=野宿やドヤ居住とも不可分の)形成に積極的に関与してきた)を明らかにすることで責任の所在を追及し、市を道義的に追い込むこと、住民基本台帳法のみに拠って立つ大阪市の矛盾を憲法とのからみで追い込むこと、に議論は集中しました。一問一答で答えを引き出すことを求めながらやりました。
やり取りの経過は以下のようなものです。
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1)憲法を持ち出して法的な面から
Q:就労形態や居住状況によって選挙権が奪われるべきでない。憲法14条「法の下の平等」に抵触しないか?
A:我々は住民基本台帳法に基づき…以下省略
Q:第十五条「公務員の選定罷免権、公務員の性質」に、「1.公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。2.すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。」とある。
労働者を選挙権を行使できない状態に行政がしてしまうことは、違法・違憲ではないか。
第四十四条「議員及び選挙人の資格」には、「両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める。但し、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によつて差別してはならない。」 とある。
憲法とのからみで、部局内で討議されたか?
A:…そういった話はしておりません。
A:憲法違反になるかどうか、再度確認する。
Q:そんな状況で、なんで住民票消すって結論だけはあるのか(怒)
A:我々としましては、3週間で周知徹底を図り…。
2)釜ヶ崎の歴史や特性(不安定就労に起因する不定住)を持ち出して
Q:市政は釜の形成に深く関与しておきながら、自分たちの責任をとらえ返す事はしないのか?
A:市民局としては、お答えできません。所管業務の中でやっている。
Q:大阪市は「職権消除は対処療法」と認識している(大阪市都市経営会議執行会議1月22日概要。ウェブでも公開)。どういう意味か。対処療法(対症療法)というならば、根本問題は何なのか。
A:市民局としては住其法の観点で対応…。
Q:他の観点がこの問題にあると考えているのか。
A:登録という観点では、住基法でしかない。総合的な判断も踏まえてとなると、市民局の所管の範囲ではできない。市として高いレベル(部局)で判断する事もある。個人的にはそういう観点も必要だと思う。手続き的には住基法でやるしかない。
Q:住其法は地域の実情に則して市町村の「総合的な判断」で柔軟な運用をすることができる。山谷や寿、笹島では問題になっていない。
A:そういう(「違法」登録の)実態が無いんだと思う。
Q:そもそも、西成区役所が解放会館での住民票登録を奨励してただろう。
A:現在、調査中であります。
Q:今日、西成区長呼ぶって約束したやん。なんで来てないの!?
A:私は来るようには伝えました。
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・今日の交渉で、大阪市が「居住実体がない」ことのみに拠って立って住民登録を消除することは、憲法に違反する疑いが強いが、これを議論・検討すらしていないということが新発見@です。
・原因問題には踏み込みきれませんでしたが、「市民局の所管の範囲ではできない」ことを認めたことも前進Aといえます。注意深く追及していかねばなりません。
・以下の点は依然そのままです。今後の交渉で盛り込んでいかねばなりません。
B大量登録の背景には、西成区役所の対応があることを、市民局は認めていないこと。
C白手帳の交付に住民票の提出を義務付けながら、ドヤの宿泊証明によるドヤへの住民登録を積極的に奨励してこなかった。それ自体、行政側の不行き届きであるが、そのぶん解放会館他の民間が代行せざるを得なかった、行政の無策を民間が代行してきたんだ、という認識の有無も、市民局は「そういう認識はない」といって逃げている。
Dさらに、「住民票はドヤ(簡易宿所)でも置けるようにします」といきなりマスコミ発表しても、実際はドヤ主組合は及び腰で、どうなるかわからない。
E今日は議題にのぼりませんでしたが、遠洋漁業の船員など、港に住民票がおけるという行政実例もあるならば、釜の生活実態に即した選挙権/住民票のおき方は、柔軟な運用ができるはず。大阪市は「住民基本台帳法」しか拠って立つ術がないことがはっきりしたので、その論拠を掘り崩す作業が必要です。
Fまた、E弁護士が強く言いましたが、市は大阪高裁の差し止め判決を市の都合のいいように抜き出して勝手な解釈をしているという点は、こちらの準備不足もあって詰めきれませんでした。
・西成区の内部調査については、「そういう(会館に置くように指示してきた)状況があれば、責任の所在を示さなければいけない」「(窓口の)個々人がやったというより、(役所として)組織として、という事」とも発言しています。
・今回の交渉は市としては「直前の申し入れ(3週間という期間設定の根拠、周知の方法など)への回答」という建前だったので、健康福祉局や西成区にも逃げられ、攻めきれなかった。交渉前に要求項目を文書で申し入れておくべきだった、ということも反省点です。
憲法に関わる検討とか、大量登録を生み出した原因の検討とか、実態の調査とか、やるべきことがちゃんとやられていないままの「3週間後大量消除」はやはり受け入れることはできません。
釜の現状に沿う形の住民登録のあり方は、市民局区政課も「市民局の所管の範囲ではできない」と言っているので、「釜ヶ崎対策」の健康福祉局、実際の住民票手続きを奨励してきた西成区の責任者を出席させることを再度強く要請し、次回の交渉に引き継ぐことになりました。一週間以内に次の協議の場を持つことを求めています。
役人は、最後まで役人らしく、「三週間程度」のラインを撤回するような言葉は言いませんでしたが、自らのやろうとしていることが、どれだけ自らの手に負えないことかは理解してるはずだと手ごたえを感じています。
法的にも道義的にも、大阪市の主張・やり方はにっちもさっちもいかないところに追い詰めつつあると思います。少なくとも市民局は。有意義な交渉になったと思います。