交渉にあたって、静岡大の笹沼教授から寄せられたメッセージを転載します。
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大阪市は、本日夕方に解放会館等で住民登録している労働者たちの住民票職権消除
を強行しようとしています。
解放会館を住所とする届出及び住民登録事務が、住民基本台帳法に照らして違法だとは言えず、実際30年近く適法なものとして扱ってきたにもかかわらず、統一地方選挙告示前に消除をしようという大阪市の姿勢は、有権者を愚弄するものであると言わざるを得ません。
大阪市による住民票職権消除の違憲性について簡単に指摘します。
1. 住民票は、選挙権だけの問題ではない。消除は選挙権はじめその他の憲法上の権利を侵害し、多大な不利益を及ぼす。
2. そのため、選挙無効のおそれのみを理由にした住民票職権消除は許されない。
3 なぜなら、.現在の登録のままでは選挙無効となる危険があるというのならば、選挙権以外の多くの権利・利益に関わる住民票の職権消除で対応するのではなく、選管の権限で選挙人名簿に投票できない旨の表示(公選法27条)をするというより制限的でない方法(権利侵害が少ない方法)があるからだ。
4. そもそも、現在の登録で選挙無効となるおそれはない。
大阪高裁決定07年3月1日は、現状で選挙無効となる可能性を指摘しているが、登録者を一律に扱ってはならないと言っている。登録者には、解放会館に住んでいる人もいれば、市外に住んでいる人もいるだろう、市外に住んでいるのに解放会館で登録している人が多数いた場合には選挙無効となると言っているに過ぎない。
実際には、差止決定された当事者と同様に、ほとんどの登録者が西成区の解放会館近隣、あるいは大阪市に住んでいるのだから、解放会館に住所があるといえる可能性もある。そうでないとしても、大阪市の統一地方選挙で投票することが選挙無効の要因になるとは言えない。
3月1日高裁決定を受けて、申立人の職権消除をしないのであれば、他の登録者についてもできないはずだ。
5. むしろ、職権消除した場合、公職選挙法の違憲性が問われる。
現行公職選挙法では、住所のない者のうち、在外国民のみ特別に選挙権行使を保護されている一方、日本国内に居住しながら職業上の理由または貧困のため住所を確保できない多数の人々は選挙権行使を保障されていない。例えば野宿者がそうだ。これは憲法15条国民固有の権利としての選挙権、14条法の下の平等、44条違反財産による選挙人差別の禁止に違反する。
在外国民以外の住所がない有権者の選挙権行使を可能とする法改正が行われるまで、職権消除は凍結すべき。
6. また、住基法の総合的解釈により、住民としての権利や選挙権行使を可能としうるのに、また約30年間してきたのに、突然、法律が変わったわけでもないのに、取扱い方針を変えて権利行使を不可能とするのは信義則上許されない。
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笹沼 弘志 (憲法学)
静岡大学教育学部
http://www.ipc.shizuoka.ac.jp/~ebhsasa/home.html
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