西原理恵子氏がレポーターをつとめ、強制排除後の大阪城公園を取材したNHKの番組『つながるテレビ@ヒューマン』(2月4日放送)について、取材対応した「失業と野宿を考える実行委員会」のメンバーが送った抗議文を転載します。なぜ「抗議」するのかについては本文をお読みください。
「失野実」では今週火曜、代執行関連のニュース報道や番組を見て意見交換する集まりを持ったのですが、管理人の印象ではこの番組はワースト2位、もう絶句・・・という感じでした。
ちなみにワースト1位は2月5日読売テレビの『たかじんのそこまで言って委員会』(こちらは、ある意味予想できましたが)。
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NHK制作担当
S様
先日、Aさんから取材協力のお礼の電話をいただいて、その場で少し番組に対する苦情を申し上げたのですが、もう少しきちんと自分の感想を伝えたほうがいいかと思い、改めてメールさせて頂きます。(Aさんの名刺を頂いていなかったので、Sさん宛てに送信していますが。)
この番組で最も欠落しているものは、野宿者の存在というものが、日本社会の構造的な問題であるという視点です。西原さんが、いわゆる「一般市民感情」というもの(そもそもこの市民感情というものもどこまで根拠があるものなのか、代執行を正当化するために野宿者VS市民という対立軸を大げさに煽っているのではないか?)を代弁するかたちで、「代執行の際にあんなに元気に抵抗できるなら働け、と思う」とか「シェルターのほうが快適なのになんで野宿の人は入所を拒否してテント生活に固執するのか?」という疑問を投げかけ(それは百歩譲って疑問としてはシンプルでいいとしても)、結局当事者からは納得のいく「弁明」が聞けず、最終的に「ホームレスは社会適応拒否者(登校拒否のようなもの)」と勝手に合点して終わり・・・というのはあまりにも番組として無責任で短絡的、表層的すぎるのではないでしょうか。
また、例えば「7割くらいは小額借金で逃げている」「空き缶を集めて働いてはいるが、働く先からワンカップを買っている」など一面的で不必要に偏見だけを助長するような適当な発言をして、野宿問題を矮小化しています。そのように矮小化するために、SさんやYさんという当事者の方の言質が利用され、また映像化されたかと思うと、憤りを感じます。
私は少しでも野宿者の状況が世間の人に伝わればという思いで、代執行で追い出しを受けた当事者であるSさんを紹介しました。Sさん自身もそういう気持ちで取材を受けられたのではないでしょうか。しかしあのように、Sさんの姿が揶揄されるかたちで、全国に報道されたことについて、どのようにお考えなのでしょう
か。
その他にも「シェルターは冷暖房完備の個室」との説明がされていましたが、これは誤りで、冷暖房があるのは共有の場所だけで、個室ではなくパーテーションで区切っただけの空間です。野宿者にはこれで十分という認識でしょうか?それにしても番組の中でシェルターの問題点を少しでも説明されたでしょうか。例えば、そういう空間的なこと、食事は1日一膳の白ごはんしか支給されないこと、露宿者は(非定住型の野宿者)入所できないこと、一度退所したら再入所は出来ないこと、入所しても仕事に就ける可能性は極めて少ないこと、などです。
10年近くかけて自力で作り上げ、命をつないできたテントの暮らしを手放すことに躊躇する野宿者の姿がわがままでしょうか。憲法25条の生存権をご存知ですか。「すべての国民は最低限度の文化的生活を保障される」というものですが、シェルターは生存権を侵害する劣悪な施設です。せめて、一方ではシェルターに対するこのような批判があることをきちんと伝えるべきではないでしょうか。とてもアンフェアな報道です。
大阪市だけで毎年200人以上の路上死があるのをご存知ですか。福祉事務所が長年にわたって野宿者に対してどのような差別的で違法な生活保護の運用をしてきたのか、ご存知ですか。そういう厳しい現実の中で、自分の命をつなぐためにテントを建てて自活するという行為を、ただ不法占拠だ、美観を損なうと言って非難することが公正なことでしょうか。
私は西原さんを含め今回の番組を作った方々が、ほとんど野宿問題の現実を知られなかったのではないかと思います。今回は番組の内容そのものがそういうコンセプトで作られたようですが、でもこれは人権に関わる問題で、公共放送という立場でありながら「知らなかった」とか「そういうふうに思った、感じた」と偏見に基づいた差別的なものの見方や感じ方をただ垂れ流すことは許されないことです。西原さんの発言やビデオの編集のあり方が、これを見た視聴者のものの見方に少なからず影響を及ぼすということは、自覚されているはずです。野宿者は怠け者だ、野宿者は特殊な価値観の持ち主でただわがままで野宿しているのだとかいうことが流布され、その結果こどもたちが野宿者に石を投げ、棒で殴り、火を放つ、そういうことを想像されたことがありますか?
実際に、野宿者は怠け者でわがままでしょうか。私は支援者としてたくさんの野宿者と話をしてきましたが、そんなことではないのです。怠け者でわがままな人もいるかもしれませんが、そうでない人がほとんどです。ごく「普通」の人々が、貧困に陥りあがいているだけです。
結果的に、あの番組が視聴者に何を伝えたか。シェルターという施設を大阪市がせっかく作って提供しているのに、入りたくないと入所を拒否してテント生活を続けることは野宿者のわがままであり、理解不能、代執行されて当然という論理を吹聴し、野宿者に対する差別感や偏見をあおることに力を貸したのです。
そういう意味で、こうしたことに対する責任を感じていただきたいし、誤った認識を正していただきたいと思います。
とりあえずあの番組について、また私の非難に対してどのような考えでいらっしゃるのか、ということと、これからどのような対応が可能かということについて返答をいただければと思います。雑文・乱文で申し訳ありませんが、野宿者の支援をまがりなりにもしているものとして、また取材に協力した責任として、やはりどうしても見過ごすことが出来ず、筆をとりました。再取材も含め、誠意ある対応を期待してやみません。
(以下、2月23日に追記)
その後、番組制作担当者の迅速な対応により、話し合いの場が持たれました。いったん話し合いを持った上で、その内容を含めて抗議してほしいとの担当者からの要望があったため、一時的に非公開にさせてもらっていましたが、非公開前と内容に変更はありません。
私たちの抗議について耳を傾け対話しようという姿勢と、再取材により野宿者の構造的な背景が見えるようなものを作っていくことについても検討していくとのことだったので、今回の番組の対応については一定評価しつつ、放送された内容に対する評価としてはまだ認識のずれがあるのではないかと感じました。今後も野宿者への理解が深まるような番組作りに向けての具体的な取り組みを話し合いによって求めて行きたいと思っています。
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(転載ここまで)