2007/12/11

生活扶助基準額の引き下げ見送りは、姑息な罠だ

生活扶助基準額の引き下げ見送り 生活保護で政府方針
http://sankei.jp.msn.com/life/welfare/071209/wlf0712092210001-n1.htm

政府・与党、生活保護基準下げ見送りへ…世論反発に配慮
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20071210i103.htm?from=navr

 生活扶助基準の引き下げは見送る一方で、「級地」の見直しは引き続き検討する方針のようです。

 新聞の報道を受けて、生活保護問題対策全国会議が緊急声明を発表しました。
http://blog.goo.ne.jp/seiho_taisaku

[ 緊 急 声 明 ]
「級地」の見直し(生活保護基準切り下げ)も許されない!

厚生労働大臣 舛添要一 殿
厚生労働省社会・援護局長 中村秀一 殿
(関連部署:社会・援護局保護課企画法令係)
                             
2007年12月10日

生活保護問題対策全国会議 代表幹事 弁護士 尾藤廣喜
(事務局)〒530-0047
大阪市北区西天満3-14-16西天満パークビル3号館7階
あかり法律事務所  弁護士 小久保 哲郎(事務局長)
電話 06-6363-3310 FAX 06-6363-3320

私たちは、福祉事務所の窓口規制などの生活保護制度の違法な運用を是正するとともに生活保護費の削減を至上命題とした制度の改悪を許さず、生活保護をはじめとする社会保障制度の整備・充実を図ることを目的として、今年6月に結成された、全国の弁護士・司法書士・研究者・市民184名で構成する市民団体である。

 12月10日付け産経新聞は、「 政府・与党は9日、平成20年度から引き下げを検討していた、生活保護費のうち食費や光熱費など基礎的な生活費となる生活扶助の基準額について、見送る方針を固めた。ただ地域間の基準額の差を実態に合わせ縮小するなどの微修正は行う。生活保護費全体の総額は維持される見通しだ。」と報道している。この報道の趣旨は、必ずしも明らかではない。しかし、仮に、これが級地間の格差が大きいことを理由に、都市部の基準を下げ、地方の基準を上げるということであれば、私たちが指摘してきた問題は何一つ解決していない。あたかも「引き下げを見送り」し譲歩したかのように装い、国民の目を欺こうとしている点で、より姑息であるとさえ言える。

 「級地間の格差が大きい」という厚生労働省の結論には、十分な裏付けがない。

1)この結論を導くときだけ、これまでとは違った根拠データを持ち出している。
 「生活扶助基準に関する検討会」第2回資料にあるように、「級地間の格差」は、第1・十分位との比較ではなく、また、「夫婦子1人世帯」や「単身高齢世帯」との比較ではなく、「2人以上の全世帯」しかも「第1〜3・五分位」によって行われている。第1・十分位の「夫婦子1人世帯」および「単身高齢世帯」で見るとどうなのか、その検証は一切行われていない。厚生労働省にとって都合のいいデータだけを抽出して「級地間の格差が大きい」という結論を導き出している疑念がある。
 鈴木亘・東京学芸大学准教授・政府規制改革会議委員・参議院厚生労働委員会顧問はこの点、次のように批判している。
「地域差縮小も単身高齢者では確認されていない!・・・地域差が縮小しているので級地の見直しをすべきという重要な結論は、標準世帯にしようとしている単身高齢者の生活費を実際にみて得られた結論ではない。地域差縮小に関してだけは、なぜか、1から3・五分位(下から60%までの世帯)の状況から分析を行っており、非常にトリッキーな分析をしている。第1・十分位の低所得世帯において地域差が縮小しているかどうかすら明らかではないのである」

2)仮に「級地間の格差が大きい」としても、その是正のために必要なことは「地方の基準を上げる」ことであって、「都市部の基準を下げる」ことではない。
 この点、布川日佐史・静岡大学教授・生活保護制度の在り方に関する専門委員会委員は、当会議に次のようなコメントを寄せている。
 「生活保護費は、1級地の1を最初に決めて、級地で差をつけることになっている。100:90:80というイメージ。級地の格差をなくすなら、100:95:90という形にならないといけない。そうでなく、95:90:85にするというのが、今回の地域間の差の「是正」と呼ばれるものである。厚労省は、低いところは増えるぞといって、受給者の分裂をはかっているのだと思われる。しかし、1級地の1をそのままにして、差を減らすほうが、一番低いところの金額は、もっと上がるはずである(100:95:90)。95:90:85というのは、1級地の1、すなわち都市部の引き下げである。上がることになる3級地の1,2などの郡部は、人口も少ない上に、保護率も極端に低く、保護受給者はほとんどいないというところばかりである。上がる人、下がる人の数をみれば、狙いがはっきりすると思う。」

我々は、今後とも、広く市民各層との連帯のもとで、国会内外の活動を強め、生活保護制度の「切り下げ」阻止の運動をより一層強めて行く決意である。

以上
posted by kamapat at 15:03 | お知らせ